価格ではなく「情緒」で選ばれる理由
フラワーショップの経営を続ける中で、他店が手がけていない斬新な取り組みにも挑戦しました。
その一つが、お届け先企業のロゴを花びらに直接プリントしたオリジナル商品の販売です。クリアケースに入れた小さなサンプルを持参し、「会社のロゴが入っているので誰もが目に留まる受付に置いてください」と自ら営業に足を運びました。
世界にひとつだけのギフトは思いのほか喜ばれ、「ぜひ取引先に贈りたい」と口コミが広がり、結果として10万円前後のお祝い花を継続的にご注文いただけるようになりました。
胡蝶蘭が定番だった当時、これほど高単価な企画商品を展開するショップはほとんどありませんでした。さらに、100年以上続く老舗の桐箱店が手がけた箱にプリザーブドフラワーを収めるなど、伝統と花を組み合わせた商品も生み出し、大きな注目を集めました。
その後、リーマンショックという未曾有の経済危機が訪れ、祝い花の需要が激減しました。出産直後の子育てと店舗経営を両立させながらの厳しい時期でしたが、私はこれを機にBtoB中心だった事業をBtoCへと転換し、ネット通販を本格的に展開する決断を下しました。
店舗に足を運ばなくても、六本木で培ってきた「付加価値」「世界観」「気配りと心配り」をきちんと届けられる仕組みをつくる。それは単なる通販ではなく、体験を含めて届けるビジネスへの進化でした。
このネット通販での経験を通じて確信したのは、「人は価格ではなく『情緒』に対してお金を払う」という事実です。情緒とは、単なる雰囲気ではなく、背景にある物語や想い、贈る理由といった目に見えない価値のことです。
本来であれば1000円程度で売られているバラの花であっても、「誰のために、いつどんな想いを届けるのか」という意味が明確であれば、メッセージをプリントし、スワロフスキーをあしらって1万5000円以上で販売しても、決して高くは感じられないのです。
同じ花、同じ技術でも価格が倍以上になる違いを生んだのは、想像力とターゲット設定でした。当時の競合がキャラクターファンをターゲットに7000円程度で販売していたのに対し、私はターゲットを「自由に使えるお金を持つ男性」に明確に設定しました。
そして、その花が届いた瞬間から先を想像しました。受け取る女性はどんな気持ちになるのか。「今までもらった中で一番素敵だった」という感動の言葉が返ってくるドラマを最後まで思い描き、それにふさわしいサービスや形を設計したのです。
高く売るために無理に価値を足すのではなく、価値そのものに情緒を宿らせることで「選ばれる理由」になる。「価格を上げる」のではなく「選ばれる理由をつくる」。この本質的な考え方は、現在の富裕層向け不動産ビジネスにおける付加価値づくりにもそのまま通じています。
